大阪高等裁判所 昭和26年(ナ)20号 判決
原告 鈴木敬三
被告 兵庫県選挙管理委員会
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
二、事 実
原告は、「昭和二十六年四月三十日執行の、神戸市垂水区選挙区における、当選人吉川政雄の当選の無効なることを確認す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、昭和二十六年四月三十日、兵庫県議会議員選挙に当り、神戸市垂水区選挙区より立候補した訴外吉川政雄は、選挙告示のあつた後昭和二十六年四月四日大阪毎日新聞神戸版の候補者一覧表に、又同月三十日神戸新聞候補者一覧表にいずれも自己の経歴を「明大政経科卒」として公示せしめているが、同人はその実単に明大専問部興亜科厚生科本科に昭和十四年四月入学し、同十五年三月退学したものにすぎない。従つて同人は自己の当選を得る目的をもつてその経歴に関して、虚偽の事項を公にしたものである。
次に同人は同じく同選挙区より立候補した訴外塩住真太郎に関して、右選挙区の多数の有権者に対して、「塩住真太郎は共産党員である故に駄目です、私(吉川政雄)に御支援をたのみます」「塩住氏は共産党で、戦時中これがため、逮捕せられた事実がある故に、今回の選挙に当つては、本名を祕して、真通とごまかして候補者になつている。」旨をいいふらし、又自由党公認決定の際同人は「塩住は以前共産党員であるものを、自由党の公認にするのは怪からん」と憤慨し、あるいは「塩住は以前共産党員で、監獄に行つた男であるのに、それを資格審査に記載していない故、仮りに当選しても、失格する人間だから、絶対に選挙の応援をしないように」といゝ、もつて塩住真太郎に当選を得させない目的をもつて、同人の思想、経歴等に関して、虚偽の事項を流布して選挙の自由を妨害したものである、よつて選挙人たる原告は、被告に対して、右吉川政雄の当選を無効として異議の申立をしたのであるが、同年六月十二日異議却下の決定があつたので、本訴に及ぶと述べた。(立証省略)
被告は主文同旨の判決を求め、答弁として、昭和二十六年四月三十日執行の兵庫県議会議員選挙に当り、神戸市垂水選挙区において訴外吉川政雄、塩住真太郎が立候補をなし、吉川政雄が当選人と決定せられたこと、及び右当選の効力に関して、選挙人たる原告から、被告に対して、異議申立があり、同年六月十二日異議却下の決定のなされたは争わないが、その余の原告主張の事実はすべてこれを争う。
しかして、いわゆる当選の効力に関する争訟とは、当選人の決定が違法なりと主張するものでなければならないのであつて、当選人の決定が適法であるためには、選挙そのものが有効に行われたことの前提の外に、なお第一に右決定をなす機関が正当に構成せられ、且つ正当の手続を経て、その決定をなしたものであることを要し、第二に各候補者の得票である有効投票数の計算の正確であることを要し、第三に当選人が当選人たり得る権利能力ありや否やの認定が正当であることを要するのであつて、右の争訟において、理由となし得るものは、以上のうちいずれかに法律上の瑕疵があることを主張するものでなければならない。
しかるに、原告が、本訴において、訴外吉川政雄の当選を無効なりと主張する理由は、専ら同人の選挙運動が不正な方法によつて行われ、選挙の自由を妨害したというのであるから、前示当選の効力に関する争訟の理由のいずれもあたらないから、その請求は失当であると述べた。(立証省略)
三、理 由
昭和二十六年四月三十日執行の、兵庫県議会議員選挙に当り、神戸市垂水区選挙区において、訴外吉川政雄、塩住真太郎が立候補をなし、吉川政雄が、当選人と決定せられたこと及び右当選の効力に関して、選挙人たる原告から、被告に対して異議申立がなされたが、同年六月十二日異議申立却下の決定のあつたことは、当事者間に争のないところである。
原告は、本件において、右吉川政雄の当選の効力を争うものであるが、いわゆる当選訴訟においては、当選人の決定が違法であること、すなわち被告所論のごとく、(一)その決定行為自体、(二)又は各候補者の有効投票数の算定、(三)若しくは当選人と決定せられたものの当選人となり得る資格の有無の認定に関して違法があること等を主張しなければならない。
しかるに、原告が本件において、その理由とするところは、要するに、右吉川政雄は、本件選挙に当つて、当選を得る目的をもつて自己の経歴に関して、虚偽の事項を公にし、又前示塩住真太郎に当選を得させない目的をもつて、同人の経歴に関して、虚偽の事項を公にしたのみならず、同人の思想等についても虚構の事実を流布し、もつて選挙の自由を妨害したものであるというのであるが、かくのごとき事由は、前示の当選訴訟において、理由とすべき何れの場合にもあたらないものというべきである。特にこの事由がある故をもつて直ちに、吉川政雄に当選人となる資格がなくなるということもできないのであつて、むしろ同人に原告主張のような行為のある場合において、その行為のため、刑に処せられたときは、初めて、その当選が無効となるにすぎないものである(公職選挙法第二百三十五条、第二百五十一条参照)。以上説明のごとく原告の本訴請求はその主張自体失当であるから、これを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判官 大野美稲 熊野啓五郎 福本一)